みずたこの部屋

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【映画感想 ミッドサマー】90年に一度の祭りって結局何だったの?

Midsommar(2019 アメリカ、スウェーデン)

監督/脚本:アリ・アスター

製作:ラース・クヌーセン、パトリック・アンデション

製作総指揮:フレドリク・ハイニヒ、ペレ・ニルソン、ベン・リマー、フィリップ・ウェストグレン

撮影:パヴェウ・ポゴジェルスキ

編集

ルシアン・ジョンストン

音楽:ザ・ハクサン・クローク

出演:フローレンス・ピュー、ジャック・レイナー、ウィリアム・ジャクソン・ハーパー、ウィル・ポールター





ミッドサマーを今更見ました。

 

 

ミッドサマー(字幕版)

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  • フローレンス・ピュー
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所感

周りがとにかく狂気!とだけ言って何も教えてくれなかったので覚悟してみましたが、華やかで明るい世界観の中で何が起こるのかわからないグロテスクな集落の儀式を永遠に見せられる恐怖だったんですね。逆に言えば、実は話の構造はそれに特化しててシンプルだから、少しでも詳しく話すとネタバレになっちゃうという。

 

でもあまりにも今までの映画で感じられなかったような種類の恐怖だったからか、所感が割れまくってるのもおもしろい。狂気、ホラー、グロい、不気味、どれも違うという人が多い。これはホラーではないとか、「怖く」はないとか。

新しいものの説明って言葉でうまくできないから、既存の概念の否定からしか語れないあるある現象。

 

いやこれ狂気の話だしホラーだと思うんだけどな…怖かった…

みる前は夢野久作ドグラ・マグラのあの狂気的恐怖のかんじかな?って勝手に想像してたんですが、怖さの種類は意外と近いかも。あっちは新たな認知にどんどん丸めこまれていく怖さだから、話の複雑さや方向性はもちろんまったく違うけど、不気味で何が起こるのかわからなすぎて怖いという独特の感覚は両者に抱いた。

 

音楽ずっと重厚すぎて不穏だし、そんなに人を不安にさせることある??って思いながらみてました。突然老人の顔面が砕けたあたりからほんとに次何が起こるかわからなくて怖かったです。

あと花に人間が侵食されている画が大好きなので、性癖的にみたい!と思ってたんですけど、怖さが勝って鑑賞中は全然そんな余裕はなかったです。ナメてすんませんでしたってかんじ。けどサイモンの殺され方は結構ツボに刺さった。最悪でよかった…あと最後の炎の儀式で草花モリモリに盛られた死体も好きでした。



それ以外だと主人公の不安障碍者ダニーのサイコロジーの物語だと解釈できる。わりとわかりやすくトラウマの抽象的描写がされまくっているので掘り下げると面白そう。臨床心理学の学びたての心理学の学生さんのゼミ課題とかでやってみても楽しそうよね。エセ夢分析とかも交えて。

 

アリアスター監督は本作をカタルシスを得る失恋物語でありおとぎ話であると語っているし、そういう面から解釈してほしいんだろうな。

まあたしかに戒め的な主張を持つ現実世界のファンタジーだと考えればグリム童話っぽくもないかもだけど…おとぎ話か…?おとぎ話か…。

 

このあたりの解釈も、みた人で意見割れてますね。

家族を妹の巻き込み自殺で消されてしまい、そこはかとなく中途半端でクズな彼氏にもなんとも言えない感情があったダニーが、ホルガの女王として受け入れられて彼氏を焼く選択をして、カタルシスを得るという構造は皆共通認識で持ってると思う。

 

しかしネットをみてると、感情を村人に共有されることで癒しを得たので救われたって考え方をする人と、それに意義を唱える人が多いです。このあたりで考え方が割れて、ハッピーエンド派とバッドエンド派に別れるというか。

 

私は、主人公が身に起こることに抗えない無力さをあきらめとともに受け入れて「しまった」話かなと思っています。

感情を共有されるという自助グループ的セラピーだとは私も思うんですけど、ホルガの場合は個人の感情を皆で奪うようなあり方ですよね。

ダニーは不健康で極めて危険な癒しを得て「しまった」んだという印象。感情を奪われてあきらめるって、こんなに恐ろしいことはないとおもうんだけどなあ。ハッピーそうなバッドエンドだと思います。



私が気になったのはそこじゃない

ツッコみどころ満載だけどあえてスルーしたるわ、そういう映画とちゃうしな!という声が多い中、揚げ足とってすみません。

90年に一度の祭りって言ってますけど、何が90年に一度なのかわからなくてめっっっちゃくちゃもやもやします。

祭り期間中にあらゆる儀式が行われていますが、そのほとんどが90年に一度より短いスパンで行われていることが明言されているし、そもそも作中では祭りの開催期間である9日間が経過していない。

 

どうしても落ち着かないので私はあえてそこを受け流さず、ミッドサマーのホルガ村の90年に一度の大祭とはなんなのか?について、自分が納得できるまで仮説を立ててみようと思います。

 

※前提としての、ホルガの基本的な考え方

  • 命はサイクルである
  • 命を差し出すことは与えることであり喜び
  • 占星術などによって性交の相手が決められて村から許可がおりる、定期的に近親相姦で奇形児を作るなど命の生産をメカニズム的に行っている
  • 心や身体の痛みは全員で共有するもの



儀式について

まず、ホルガの祭り期間中に行われた儀式と、考えられる実施スパンについて一通り振り返ってみようと思います。

 

アッテストゥパン

…72歳になった老人が自殺示唆される、掟のような儀式。

ホルガの人々の人生を季節のように捉える人生観だと、産まれてから18歳までは春、36歳までは巡礼に出る夏、54歳までは労働する時代の秋、72歳までは人々の師となる冬。

つまり72歳を超えたものは命を新しい世代に差し出さなくてはならず、72歳超えの人はそれなりのペースで出てくるはず。90年に一度の儀式とは考えにくい。



メイクイーンを選ぶダンスコンテスト

…ホルガの若者が死ぬまで踊った伝説をもとに、女性で輪になって踊り続けて最後に立っていた者が女王になる儀式。

ペレいわく毎年行われる。宿舎には歴代メイクイーンの写真が飾られているが、作中では元メイクイーンが登場しない。もしかしたらホルガの、「命をもって恵みを与える」という基本的な考え方に基づいて殺されているのかも。ダニーの命が心配。



ビクスミンディグ

…15歳になると許されるセックスの権利。

 

民俗学院生のジョシュがホルガの聖書ルビ・ラダーの解説とルベンの説明を受けてるシーンで、近親相姦対策でたまに外部の者の血を混ぜると発言されている通り、ダニーの彼氏のクリスチャンが村の娘マヤと性交を行う。余談ですがこの映像が一番きつかったって言ってる人が多いですよね…

作中で赤ちゃんの泣き声が聞こえることと、子供もホルガにたくさんいることから、ビクスミンディグ自体はまあまあの頻度で行われていそう。

よそものの血を入れるのが90年に一度だったりする?と一瞬考えましたが、近親相姦対策として行われているならそんなことはなさそう。

 

 

 

と、ここまでの儀式はなんとなく90年に一度ではないなという確信が持てるのですが、どうしてもスパンが推定しにくいのが炎の儀式です。

 

炎の儀式

…三角形の建物の中に、9人の生贄が並べられて焼かれる儀式。

 

周期について考えられるのは主に以下の3説。

 

①メイクイーンが最後の生贄を選ぶのは定例らしい

→ダンスコンテストが行われるたびにやっている

 

ダンスコンテストと炎の儀式がセットになっているという考え方。そうなると、メイクイーン選出が毎年行われているから炎の儀式も伴って毎年遂行しているということになる。

 

②ペレの「両親は炎で焼かれた」発言

→毎年でなくても少なくとも20年に一回くらいのペースでは行われている

 

この問題を考えるときに最も厄介なのが、ペレの両親の死はこの儀式が原因なのかが明言されていないこと。そうだと断定するブロガーさんも多いけど、炎で焼かれる=炎の儀式であると確定できる証拠がない。

 

作中でごまんと見せつけられたホルガの儀式量の多さだと、人間を火で焼く機会は他にもありそうだし、実際にアッテストゥパンで命を投じた二人は石皿で燃える火のなかで焼かれています。

 

でもわざわざペレに俺の両親も焼かれたと言わせているのはなにか深い意味がありそうな気もするので、炎の儀式でペレの両親が死んだ説も大いに考えられます。と考えるなら、やはりこれは90年に一度ではない。①のように毎年行われているか、もっと少ない、たとえば20年に一回くらいの頻度で行われているかということになる。

 

③他の血から4人生贄に出さなくてはいけない

→90年に一度の祭りのときに行われる儀式で、その際はその年のダンスクイーンが選別を行う決まりになっている。

 

毎年よそから何人も連れてきて一気に処刑するってかなりコスパ悪いというか大変そう。よその血を混ぜるのも、ジョシュがホルガの聖書ルビ・ラダーとルベンの説明を受けてるシーンで「たまにやる」と語られていることから、毎年連れてきているとは考えにくい。

また、生贄を焼くための神殿である建物はまあまあ大きく、尚且つ木製で一緒に焼ききられるためその度に作られているはず。相当の労働力がいりそう。

と、こういった負担量を考えるとやはり炎の儀式が「90年に一度」のものである可能性は十分にあると思います。



9日間経っていない問題

 

ここまで儀式の内容についておさらいしてみましたが、炎の儀式が有力候補だとしても決め手にはなり辛い。

しかし、クリスチャンの昏倒期間で数日たっていた!とかでない限り、たぶん5日くらいしか祭り開始から経っていないんですよね。

そもそも昏倒期間が不明である限り、時間軸の確実な答えがわからない。そのせいで90年に一度ってなにがなの?問題に明確な答えは出せないというのが現実的な結論ではあるんですが。仮説は3つくらい考えられます。


【仮説】

①このあとに90年に一度のなにかをやる

 

おそらくこのあとにもまだなにかあるんでしょうね。

となると、その残りの期間で90年に一度しか行われない何かが起こる可能性は高い。一番自然に考えられる説だと思います。でも外部から来た人間はダニーを除いて全員殺されているし、まだやるの?という気はしますが。どうなんだろう。

 

②やはり炎の儀式が90年に一度

 

上記した通りかなり大がかりな儀式なので、そうじゃないかと言い切るブロガーさんも結構多いし私も可能性はあると思います。もしかしたらダニー一行がホルガに来る前の外での待機期間までに、4日間が過ぎていたかもしれないし、クリスチャンの昏倒中にかなり時間が経っていたのかもしれない。これまで行われていた殺しは炎の儀式のための生贄集めで、私たちはそれを永遠に見せ続けられていた…とか。このあとフィナーレ的なお祭りをしてフィニッシュとかありそう。

 

③全儀式をまとめて行う期間

 

完全に私の「だったらおもしろいな」という考えで証拠は全然ないのですが、ペレの両親の死が炎の儀式だとしたら②はありえない話になってしまう。そもそも、90年に一度の『なにかが起こる』、とは言われていない。ペレもアッテストゥパン後に泣き崩れるダニーに、90年に一度の「経験」を共にしたかったと語っているし、あくまでも90年に一度の9日間の「祭」なんですよね。

となると、こういう期間が設けられていろんなことが行われていること、そのものが祭りなのかもしれない。

異様なペースであらゆる儀式を行っているので、もしかしたら儀式という儀式すべてを一気に行って太陽に全力感謝する期間だったりしないかな?

 

 

まとめ

と、9日間の謎について言及したらひとまずもやもやは落ち着きました。

先ほど述べた通り、わからなくて当たり前なんですよね。祭りの期間の半分ほどしか情報が与えられてなくて、その中でも90年に一度のものが明言されてないのだから。仮説にしかならない。

これが意図的に組み込まれていたとしたら、見終わった後まで「わからない不気味さと怖さ」を与えられているってことかなぁーなんて思いました。



 

余談

ダニーはこの後どうなる

 

なんとなく殺される気がしません?

メイクイーン殺されている説のこともあるし、そもそも彼女は18歳ということはないだろうしホルガでいう夏の期間なので、本来はいちゃいけないんですよね。

 

けれど、あなたはファミリーよ、とかなり受け入れられている様子もあったので、このままホルガ族としてペレと生きていくような気もしています。

 

どちらにせよホルガ側としてはせっかく入れてきたよその血なので、ペレとの間に子を宿らせて滞在する可能性は自然に考えられる。うーんでも、その後殺しそうだな~

なんにせよ最悪だな。

 

マヤの最後のヘアメイクと衣装何??????

 

赤の刺繍ベストと赤い口紅めちゃめちゃにかわいいんですけど。赤ちゃんを身ごもったということは生命の象徴で誇り高いことだから、ビクスミンディグ後の少女は血を連想させる赤を身にまとう的な文化なのかしら。

 

どの村人も衣装の色もどんどん白地から色が増えていくの、なんかあるんだろうな。それぞれの服に刺繍されているルーン文字について説明されているブログもいくつかあって感心しながら読みました。

お洋服も掘り下げると沼だろうな…北欧神話や民族文化のつぎはぎにオリジナルを加えている創作民族みたいですけどね。服のこと考えるならそこらへんも勉強して考えなきゃですが、知識量0なので諦めます。

 

                                   終わり